【院生が徹底解説】ChatGPTのベクトルデータベースとは?
この記事はベクトルデータベースの概要について、従来のデータベースと比較しながら説明しています。
AIについて研究している大学院生の方と協力して書きました。
最後まで読んでいただくと、ベクトルデータベースとは何かわかります。
ぜひ最後までご覧ください!
ベクトルデータベースとは?
ベクトルデータベースの概要
ベクトルデータベースとは、その名の通り、ベクトルという数学的概念を用いてデータを管理するデータベースシステムのことを指します。
それではまず、この「ベクトル」について簡単に説明しましょう。
ベクトルとは、高校数学でも習うように、大きさと向きを持つ量を表すためのものです。多次元空間内での位置関係や特徴を表現することができ、その性質を利用してデータ間の類似性などを計算します。
具体的には、機械学習やデータ分析の領域でよく用いられています。例えば、商品やユーザーの特徴を多次元のベクトルで表現し、それぞれのベクトル間の角度や距離を計算することで、類似度を測定します。これにより、高度な検索や推薦などのタスクが可能となります。
身近な応用例だと、AmazonやYouTubeのレコメンドシステムにも使われています。
YouTubeの場合、1つ動画を見たら、その動画の関連動画が出てくると思います。これは、動画1つ1つをベクトルに見立てて、システムが「似ているか否か」を判定し、「似ている」と判定された動画たちが表示されているのです。
ベクトルデータベースは、こうしたベクトルの特性を活かし、YouTubeの動画のような高次元データや非構造化データも、効率よく格納し、処理することが可能になります。
引用元:あらゆるデータの瞬時アクセスを実現する Google のベクトル検索技術
ベクトル埋め込みとは?
ベクトルデータベースを理解する上で重要な概念「ベクトル埋め込み(Vector Embedding)」についても説明をしておきます。
ベクトル埋め込みとは、高次元のデータセットを、より低次元のベクトル空間に変換するプロセスを指します。この変換により、複雑なデータ構造や関係性を保持しながら、データの操作や解析を効率的に行うことが可能になります。
ベクトル埋め込みの主な特徴と用途:
- 次元削減:ベクトル埋め込みは、大規模なデータセットや複雑なデータ構造をより扱いやすい形式に変換するために用いられます。例えば、テキストや画像のような非構造化データを数値ベクトルに変換し、これをデータベースで効率的に処理します。
- 類似性の計算:ベクトル空間に変換されたデータは、類似性を計算するのに適しています。例えば、ベクトル間の距離(後述するユークリッド距離やコサイン類似度など)を計算することで、アイテム間の類似性を測定可能です。
- 機械学習との連携:機械学習モデルは、多くの場合、入力データをベクトル形式で受け取ります。ベクトル埋め込みは、これらのモデルにデータを供給するための前処理ステップとして機能します。
- 検索と推薦システム:ベクトル埋め込みは、検索エンジンや推薦システムにおいて重要な役割を果たします。類似性に基づいてアイテムを検索したり、ユーザーの好みに合った推薦を生成したりする際に使用されます。
ベクトル埋め込みは、データの特性や関係性を保持しながら、効率的な計算や解析を可能にする強力なツールです。
ベクトルデータベースは、これらの埋め込みベクトルを利用して高速で精度の高い検索やデータ分析を実現します。
大規模言語モデル(LLM)におけるベクトルデータベースとは?
大規模言語モデル(LLM)は、自然言語処理(NLP)技術を使用して大量のテキストデータから学習する機械学習モデルです。テキストの生成、翻訳、要約など、さまざまな言語タスクを実行できます。
その中においてベクトルデータベースは、データをベクトル(数値の配列)として保存し、検索します。この特性は、LLMが生成する大量のテキストデータや、言語データを効率的に処理するのに特に有用です。
例えば、ユーザーが入力した質問に対して最も関連性の高い回答を検索する際、LLMはテキストをベクトルに変換し、ベクトルデータベース内で類似性の高いベクトルを検索します。これにより、関連する情報を迅速かつ正確に見つけることができます。
LLMにおけるベクトルデータベースは、膨大な言語データを効率的に処理し、高度な自然言語処理タスクを可能にするための強力なツールです。
データベースとデータの違い
データベースとデータの違いについても解説しておきます。
ベクトルデータベースにおける「データ」と「データベース」の違いを理解するには、基本的な概念を把握することが重要です。
データ(Data)
- 定義: データは、情報の基本的な単位です。これは、数字、テキスト、画像など、様々な形で存在できます。
- ベクトルデータベースにおける役割: ベクトルデータベースでは、データはしばしばベクトル形式に変換されます。この変換は、非構造化データ(例えばテキストや画像)を数値ベクトルに変換し、これをデータベースで効率的に処理することを可能にします。
データベース(Database)
- 定義: データベース(DBと略されることが多い)は、データを整理・保存し、アクセスするためのシステムです。これはデータの集合を管理し、クエリに基づいて情報を取りだす機能を提供します。
- ベクトルデータベースの特徴: ベクトルデータベースは、特にベクトル形式のデータを効率的に扱うように設計されています。これには、類似性に基づく検索(例えば最も近いベクトルを見つけること)や高次元データの高速処理などの機能が含まれます。
簡単に言えば、データは「情報そのもの」を指し、データベースは「データを効率的に管理、検索、分析するためのシステム」を指します。ベクトルデータベースは、特にベクトル化されたデータを取り扱うことに特化しており、類似性検索や高度なデータ解析を可能にする高度な機能を備えています。
従来のデータベースとの違い
現代の情報社会において、データは様々な形で存在します。
これまでは主に
- リレーショナルデータベース
- グラフデータベース
などのシステムを用いてデータを管理してきました。
しかしその性質上、リレーショナルデータベース・グラフデータベースとベクトルデータベースの間にはいくつかの重要な違いが存在します。
以下の表は、それらの主な違いを簡潔に示しています。
ベクトルデータベース | リレーショナルデータベース | グラフデータベース | |
---|---|---|---|
データ表現 | ベクトル | 表 | ノード(点)とエッジ(線)のグラフ |
データの処理速度 | 高次元データにおいても処理速度が速い | データの規模が大きくなるにつれて処理速度が落ちる | 関連するデータを高速で処理できる |
対応するデータの種類 | 非構造化データも可能 | 構造化データ | 関係性が複雑なデータやネットワークデータ |
クエリ処理 | ベクトル間の類似度や距離に基づくクエリ処理 | テーブル間の関係や条件に基づくクエリ処理 | ノード間の関係性に基づくクエリ処理。 |
得意とする用途 | 画像、音声、テキストなどの非構造化データの検索。 | 在庫管理システム、顧客情報管理、会計システムなどの構造化データの管理。 | SNS分析、レコメンドシステムなどの関連性が複雑なデータの分析。 |
リレーショナルデータベースは、データをベクトルではなく、「表形式」で保存します。また、リレーショナルモデルを使って構造化データを保存し取得することを目的として設計されています。
そのため、データの列と行に基づくクエリに最適化されています。
リレーショナルデータベースでは、画像ファイルや音声ファイルに含まれる膨大なデータポイントを効率的に扱うことができません。
参考記事:リレーショナルデータベースとは?特徴やメリット等をわかりやすく解説
グラフデータベースは、データを「グラフ形式」で保存します。これにより、複雑な関係や相互作用を持つデータを直感的かつ動的にモデル化することが可能になります。
データの接続性を重視するため、ノード間のパスを追跡するようなクエリに特化しています。
しかしグラフデータベースも、画像や音声などの非構造化データ内の複雑なパターンや類似性を直接的に処理するのには向いていません。
参考記事:グラフデータベースとは何か ~ネットワーク状のデータ構造から瞬時に情報を検索するDBを解説
なお、ベクトルデータベースとSQLの比較について詳しく知りたい方は、下記の記事を合わせてご確認ください。
→【院生が徹底解説】ChatGPTのベクトルデータベースとSQLの比較
ベクトルデータベースが重要である理由
ではなぜ、新しいアプローチであるベクトルデータベースが注目されているのでしょうか?
それは現在、進化しつつあるAIにおける「データの特性」と「処理の要求」に非常に適しているからです。具体的な理由は以下のとおりです。
- 非構造化データの増加: 現代では、画像、ビデオ、音声、テキストなどの非構造化データが爆発的に増加しています。ベクトルデータベースは、これらのデータタイプを効率的に処理し、分析するのに適しています。
- 高速な類似性検索: AIアプリケーションでは、類似性に基づく検索が頻繁に必要とされます。ベクトルデータベースは、類似または関連するアイテムを迅速に検索する能力に優れています。
- 機械学習との親和性: 機械学習モデルは、データをベクトル空間内で解釈します。ベクトルデータベースは、これらのモデルが生成するベクトル表現を直接的に保存・検索できるため、機械学習ワークフローとの統合が容易です。
- スケーラビリティ: AI社会では膨大なデータを扱う必要があります。ベクトルデータベースは、大量のデータセットに対しても高速でスケーラブルな検索を提供します。
- リアルタイム分析: AIアプリケーションはリアルタイムのデータ分析を要求することが多いです。ベクトルデータベースは、リアルタイムでのデータのクエリと分析に適しており、即座の意思決定をサポートします。
これらの理由から、ベクトルデータベースは現代のAI社会におけるデータ処理の要求を満たす重要な技術となっています。
ベクトルデータベースの基本性能
ベクトルデータベースは、以下のような能力を持っています。
- 高次元データの処理能力:大規模なデータセットや高次元のベクトルデータを効率的に処理できます。
- 類似性検索の高速性:データ間の類似度を計算し、最も似ているアイテムを迅速に検索できます。
- スケーラビリティ:データ量の増大に対しても性能を維持しやすい設計がなされています。
- リアルタイム処理:クエリに対する応答時間が短く、リアルタイムでのデータ分析が可能です。
- 非構造化データのサポート:テキスト、画像、音声などの非構造化データを数値ベクトルに変換して取り扱うことができます。
- 柔軟なデータ構造:様々なタイプのデータを一定の形式に変換せずに扱うことができます。
- 機械学習との統合性:機械学習モデルが生成するベクトル表現をそのまま利用してデータの保存、検索、分析が行えます。
これらの性能によって、ベクトルデータベースは多様なAIアプリケーションにおいて、中心的な役割を果たしています。
ベクトルデータベースで解決できる問題
従来のデータベースと異なり、ベクトルデータベースはベクトル間の類似度や距離に基づくクエリ処理が可能で、非構造化データや高次元データも効率的に処理することができます。
これにより、画像や音声といったメディアデータの検索や分析といった課題に対応することが可能です。そうすると、先程例に上げたAmazonやYouTubeのリコメンドなどを、高速に処理できるようになります。一方で、従来のデータベースしかない時代は、どのようなアプローチをしていたのでしょうか?
特に、検索という処理にフォーカスし、確認してみましょう。
従来型のデータベースしかない時代の検索へのアプローチ
「検索」は、データベースにおいて重要な処理の一つです。データベースに蓄積された情報の中から、特定の条件に合致するデータを効率的に見つけ出す必要があります。
データベース内の各アイテムを数値のベクトルとして表現し、要求されたベクトルに最も近いアイテムを見つけ出す検索手法を「ベクトルサーチ」と呼びます。
例えば、Amazonなどのレコメンドシステムでは、ユーザーが購入した商品のデータと、類似するDB内のデータを検索し、それらのデータをユーザーに表示します。
従来のデータベースで、構造化データを扱う前提で類似データの検索を行う場合、
- パターンマッチング
- 全文検索
などの手法を用いてましたが、データベース内の全データに対して検索をかけるため、データ数が増えるにつれて効率性は低下します。
Amazonの商品データはDB内に大量にあるので、上記の方法で検索を行うと、かなりの計算時間を必要とするでしょう。これでは、レコメンドシステムの際に、ユーザーにおすすめ商品がなかなか表示されない、という問題が起こります。
この問題を解決するために、
- インデックス
- クラスタリング
- カーネル法
などがあります。これらの手法はデータの特性を利用し、検索効率を向上させることを目指しています。
ただし、リレーショナルデータベースは主に構造化データを扱う設計となっているため、非構造化データを扱う際には限界があります。例えば、画像や音声などの非構造化データをリレーショナルデータベースで直接的に管理しようとするのは難しいです。
そこで、データベース内の特定のカラムに、非構造化データをバイナリ形式で格納するためのBLOBデータ型を使用することがありますが、データの検索や処理は制限される場合があります。
では、ベクトルデータベースはどのように検索処理を効率化していたのでしょうか?
ベクトルデータベースにおける検索の原理
データベースが持つデータに対する要求(データの検索や更新など)をクエリといいます。
今回は、ベクトルデータベースのクエリ処理の「検索」について話します。
ベクトルデータベースでの検索では、以下の大きな流れをたどります。
- 検索時の類似度指標を決める
- 生データをベクトル化
- ベクトルデータをDBに格納
- ベクトルデータを抽出し, 近似最近傍探索
- クエリに対する最近傍の検出(検索)
それでは順番に見ていきましょう!
1. 検索時の類似度指標を決める
最初に行うことは、ベクトルの類似性を測るための、類似度指標を決めることです。
類似度指標によって用途が異なるため、必要に応じて使い分ける必要があります。
ベクトルの類似性を測るには、主に以下の3つが使われます。
- ユークリッド距離
- コサイン類似度
- 内積
どれもベクトル間の類似度を測るための指標として、よく使われます。
例えば、ユークリッド距離はベクトルの大きさも考慮したい場合などに使います。
また、コサイン類似度や内積は、ベクトルの大きさは考慮せず、ベクトルの向きだけに着目したい場合に用います。
分かりやすくするために、「ベクトルの大きさを考慮したい場合」や「ベクトルの向きだけに着目したい場合」の具体例を以下に示します。
まず、下にあるレコメンドシステムの図をご覧ください。
この図は、各カテゴリの購入点数でベクトル表現したものから、各ユーザー間の好みの類似度を可視化するための図です。
各ユーザー(A, B, C)が何に関心があるかを、各カテゴリの購入点数でベクトル表現しています。
(引用元:https://vigne-cla.com/5-11/#toc5)
上記の画像を見ると、ユークリッド距離の観点で最も似ているベクトルのペアはBとCです。(ユークリッド距離が一番近いため。)
しかし、コサイン類似度の観点で見ると、角度が一番小さい、つまり最も似ているベクトルのペアはAとBになります。
このように、ベクトルの類似度指標によって結果が異なります。
ベクトルの大きさは「ユーザーの利用頻度」を表しているので、ユーザーの利用頻度を考慮したい場合は、ユークリッド距離を使うのが望ましいです。
一方、それらの利用頻度は考慮せず、単純に商品の購入傾向だけからユーザー間の好みの類似度を計算したい場合は、コサイン類似度や内積を用います。
これらの指標の決め方は、「インデックス」の作成時に引数に渡すだけです。
インデックスというのは、 ベクトルデータを管理する単位のことで、リレーショナルデータベースでいう「テーブル」と同じ位置付けです。
2. 生データをベクトル化
次に、深層学習などの技術を用いて、「生データ」からベクトルを生成します。
生データとは、文書データや音声データなどのことです。
機械が理解できるのは数値のみなので、生データからベクトルを作る必要があります。その中でも、ベクトルは表現力が高く、機械が理解しやすい形です。
ベクトル化のもう一つの重要な利点は、データ間の類似度を測定しやすいことです。具体的には、データ間の類似度を測るためには、ベクトル間の類似度を計算するだけです。これにより、検索時にデータがどれだけ似ているかを簡単に判断できます。
ベクトル化の一例として、文章データを考えてみましょう!以下は、文章がベクトル化された例です。
文章例 | ベクトル |
---|---|
猫は可愛い | [0.234, -0.567, 0.890, 0.123, -0.456, 0.789] |
今日は晴れた日だった | [0.567, -0.123, 0.456, -0.789, 0.234, -0.567] |
人工知能の発展が進んでいる | [0.890, 0.123, -0.456, 0.789, -0.234, 0.567] |
最新のディープラーニング技術について学びたい | [0.123, -0.456, 0.789, -0.234, 0.567, -0.890] |
自然言語処理の応用は幅広い | [-0.456, 0.789, -0.234, 0.567, -0.890, 0.123] |
このように、Transformerなどのライブラリを用いることで、文章をベクトルに変換することができます。
また、他の深層学習ライブラリを用いることで、「画像→ベクトル」や「音声→ベクトル」のような変換も可能です。
3. ベクトルデータをDBに格納
生データをベクトル化した後は、次にこれらのベクトルをデータベースに格納します。
これは、大量のデータの高速な検索や類似性の比較を可能とするためです。
以下の図は、データの格納時の違いです。ベクトルデータベースでは、ベクトル化したデータをDBに格納しています。
ベクトルデータベースでは、ベクトル化したデータをDBに格納していることがわかりますが、
従来のデータベースでは、生データをそのままDBに入れています。
このように、ベクトルデータベースでは、データをベクトルとしてDBに格納する点が特徴的です。
4. ベクトルデータを抽出し、 近似最近傍探索を行う
データの格納ができたら、近似最近傍探索というベクトル量子化手法を実行します。
この処理は、検索効率を上げるために必要な処理です。
もし、この手法を施していない場合どうなるでしょうか。
以下の図ようにベクトルがあるとします。
この場合、全てのデータ(ベクトル)から似たものを探すことになり非効率的です。
仮に、ベクトル数が1,000,000で、それぞれの次元数が1,000だとしたら、1,000,000×1,000個の値全てを確認して検索しなくてはなりません。
そこで、以下のように似た者同士を集め、1つのベクトル(代表点)とみなす処理が考えられました。
こうすることで、似たものだけを検索すれば良いので検索効率がアップしました。
ただし、正確性と速度はトレードオフの関係にあるため、検索精度をある程度犠牲にしなければなりません。
代表点からの距離が近ければ、より細かく検索することになるので、正確性は上がります。
反対に、距離を大きくとって、「ある程度近ければ1つのベクトルでいいよ」というふうにすれば、処理速度は上がります。
距離を大きくとるということは、おおざっぱに探索するイメージです。
5. クエリに対する最近傍の検出(検索)
最後に、クエリに対して似たデータの検索です。
先ほどは、似たベクトルたちを1つの「グループ」にまとめました。ここの検索では、クエリと似ている「グループ」を検出します。グループを検出するために、「代表点」を見つけています。
つまり、「クエリのベクトル」と「DB内の代表点のベクトル」との類似度を計算しているのです。
ここまでが、ベクトルデータベースにおける検索の仕組みです。
では一体、全く同じ検索処理をリレーショナルデータベースやグラフデータベースで行うと、どのくらいコストがかかるのでしょうか?
リレーショナルデータベース、グラフデータベースで検索処理を行うコスト
リレーショナルデータベースの検索処理のコスト
リレーショナルデータベースで検索を行う場合、ベクトルデータベースと比較すると計算時間がかかります。そう考えられる理由としては、以下の2つです。
- 「データをわざわざDBから出してからベクトル演算」という工程が必要
- 近似最近傍探索のために、外部ツールとのやり取りが必要
詳しく説明していきます!
まず1つ目。
検索処理の中に、ベクトル演算という工程を必要とします。
ベクトルデータベースでは、対象となるデータを直接ベクトル形式で操作でき、一部のデータに対して高度な数値演算(ベクトル演算)を直接適用できるため、短時間で処理が可能です。
これに対して、リレーショナルデータベースでは、必要なデータを一度DBから取り出し、外部の計算環境(例えばPythonなどのプログラミング環境)でベクトル演算を行う必要があります。
この工程は、データの取り出しやデータの変換、そしてベクトル演算自体に時間がかかる可能性があります。
2つ目。
検索スピードをアップさせるために、近似最近傍探索という処理が必要です。
ベクトルデータベースでは、この処理が可能ですが、リレーショナルデータベースでは外部ツールが必要となります。
加えて、これらの要素がプログラムの複雑さを増すため、メンテナンスもより時間を要することになります。
そうすると、データベースと外部ツールとの間で、データのやり取りが増えるため、ベクトルデータベースに比べ遅くなってしまいます。
※DB内には、生データをベクトルデータに変換したものが格納されているとします。
以上2つのようなことがあると、処理を実行するプログラムが複雑になってしまいます。
そうなると、処理時間だけではなく、プログラムの修理や管理にも時間がかかるようになります。
グラフデータベースの検索処理のコスト
またグラフデータベースのデメリットについても、以下のコストが考えられます。
- スケーラビリティの問題
- クエリの複雑性
まず1つ目は、スケーラビリティの問題。
グラフデータベースはノードとエッジの複雑な関係を管理します。大規模なグラフになると、データの量が増えるにつれて、ノード間の接続を追跡し管理するのが難しくなります。これは、大量のデータを扱う場合にパフォーマンスの低下を招く可能性があります。
次に2つ目。
クエリの複雑性の問題です。グラフデータベースのクエリは、リレーショナルデータベースに比べて複雑になることがあります。ノードとエッジの関係性を理解し、それに基づいたクエリを作成する必要があります。このため、クエリの設計や最適化には特別な知識が必要になります。
これらの点は、グラフデータベースが特定の用途には非常に有効である一方で、すべてのデータストレージや処理のニーズに適しているわけではないことを示しています。
それぞれのメリット・デメリットを比較すると以下のとおりです。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
ベクトルデータベース | 高次元のデータを効率的に処理する。非構造化データ(画像、音声、テキスト)の類似性検索に優れる。 | 構造化データの管理には不向き。一般的なクエリ処理や集計には最適化されていない。 |
リレーショナルデータベース | 構造化データの管理に強い。豊富なクエリ言語と堅牢なデータ整合性。 | ベクトル演算という鴻江亭が必要。外部ツールとのやり取りが必要な場面がある。 |
グラフデータベース | 複雑な関係性のデータを直感的に表現する。関連性の深いクエリ処理が高速。 | 大規模データのスケーラビリティに課題。クエリ言語が複雑で学習コストが高い。 |
適材適所を見極めて、利用することが重要そうですね。
ではベクトルデータベースは、実際にはどのような場面で活用されているのでしょうか?
ベクトルデータベースの具体的な用途
ベクトルデータベースの代表的な事例を3つ挙げます。
- 類似画像検索:ベクトルデータベースは、画像をベクトルに変換し、類似画像を検索するのに使用されます。例えば、ユーザーがアップロードした画像に似た画像をデータベースから見つけることができます。
- レコメンドシステム:商品やコンテンツの推薦システムでは、ユーザーの過去の行動や好みを基にしたアイテムのベクトルを生成し、それに基づいて個人に合わせた推薦を行います。ユーザーの興味に最も近いアイテムを見つけ出すのに役立ちます。
- 自然言語処理:ベクトルデータベースは、テキストデータをベクトル化し、そのベクトルを用いて文書の類似性を判断する自然言語処理アプリケーションに使用されます。例えば、類似するトピックや内容を持つ文書を検索する際に有効です。
身近にある検索機能や、AIのシステムとして活用されていることがわかりますね。
基本的な事項は押さえたところで、最後は代表的なベクトルデータベースをご紹介します。
ベクトルデータベースの代表的なサービス3選
ここでは、ベクトルデータベースの代表的なサービスを、4つほどご紹介します。ここでご紹介するサービスは以下の通り。
- Pinecone
- Weaviate
- Chroma
- Oracle
これらのサービスの特徴を、以下の表にまとめました。
サービス | 開発元 | 特徴 |
---|---|---|
Pinecone | Pinecone社 | 数十億のベクトルを10msで検索可能なほどの、処理精度の高さ |
Weaviate | Weaviate社 | オープンソースの検索エンジンで、自分でホストすることが可能 |
Chroma | Chroma社 | angChainやLlamaIndexとの連携が可能。オンラインメモリでも可能 |
Oracle | Oracle社 | 企業システムの様々なニーズを満たす拡張機能を所持 |
ちなみに、他の記事ではElasticsearchやgensim、Faiss、Annoyがベクトルデータベースだと紹介している記事がありますが、これは間違っています。
- Elasticsearchは、オープンソースの全文検索エンジン
- gensimは、自然言語処理のためのオープンソースライブラリ
- Faissは、近似最近傍探索ライブラリ
- Annoyは、近似最近傍探索ライブラリ
ベクトルデータベースは、高次元データをベクトルとして扱う「データベース」なので、上記のサービスは該当しません。
くれぐれも間違えないよう、注意してくださいね!
ベクトルデータベースの課題と将来性
最後に、ベクトルデータベースが抱える主要な課題と将来性について説明します。
ベクトルデータベースが抱える課題
- スケーラビリティの問題:大量のデータや高次元ベクトルを効率的に管理し、処理することは技術的に困難です。これは、特にビッグデータを取り扱う環境でのスケーラビリティに影響を与えます。
- 複雑なクエリ処理:ベクトルデータベースは、類似性検索に特化しているため、従来のリレーショナルデータベースのような複雑なクエリ処理や集計機能には制限があります。
- 専門知識の必要性:ベクトルデータベースの運用や最適化には、専門的な知識や技術が必要です。これにより、一部の組織では導入や管理が難しい場合もあります。
ベクトルデータベースの将来性
- AIと機械学習の進化に伴う需要増:AIと機械学習の分野が進化するにつれて、非構造化データや高次元データの処理がより重要になります。ベクトルデータベースは、これらのデータを効率的に扱うことができるため、需要が高まると予想されます。
- 新しい技術の統合:進化する技術との統合により、ベクトルデータベースの性能や機能が向上する可能性は高いです。これには、クラウドコンピューティング、分散処理、AIの最適化技術などが含まれます。
- 多様な応用分野への適用:類似性検索やパターン認識などの機能は、医療、金融、リテール、エンターテイメントなど多岐にわたる分野で応用される可能性があります。
ベクトルデータベースは、AI社会における重要なデータ管理ツールとしての地位を確立しつつあり、今後の技術進化によりその役割と影響力はさらに増すことが予想されます。
理解を深め、しっかりと活用していきたいですね。
なお、ベクトルデータベースとSQLについて知りたい方はこちらをご覧ください。
→【院生が徹底解説】ChatGPTのベクトルデータベースとSQLの比較
まとめ
ベクトルデータベースは、高次元データをベクトルとして扱うデータベースのことです。
従来のデータベースで類似データの検索を行う場合は、
- インデックス
- クラスタリング
- カーネル法
などの手法によって、実現していました。
これらは、データの検索や処理が制限される場合がありましたが、
ベクトルデータベースにより、高速に処理することが可能になりました。
ベクトルデータベースの代表的なサービスは、以下の通りです。
サービス | 開発元 | 特徴 |
---|---|---|
Pinecone | Pinecone社 | 数十億のベクトルを10msで検索可能なほどの、処理精度の高さ |
Weaviate | Weaviate社 | オープンソースの検索エンジンで、自分でホストすることが可能 |
Chroma | Chroma社 | LangChainやLlamaIndexとの連携が可能。オンラインメモリでも可能 |
Oracle | Oracle社 | 企業システムの様々なニーズを満たす拡張機能を所持 |
以下の記事では、ベクトルデータベースとSQLの比較をしております。
気になる方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
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