AIを訓練している囚人たち。フィンランドの囚人は生成AIの縁の下の力持ち
2023年1月時点で、ChatGPTなどの生成AIを使う人は少なく見積もっても1億人以上になっている。
生成AIは、訓練やデータ学習をすることで正確な情報を生成できるとされている。
では、その訓練やデータ学習は誰がしているのだろう?
その実態について、今回は紹介したい。
「AIを訓練している囚人たち」では、フィンランドのスタートアップ企業が、生成AIの訓練に刑務所の囚人を使っていることに触れている。囚人たちはスキルが身につき、企業は低賃金で生成AIの訓練を行う人材を確保できるようだ。
記事の概要
この記事では、フィンランドの刑務所で囚人を使って生成AIトレーニングを行うことの利点について説明している。
フィンランドのスタートアップ企業「Metroc」は、建設会社が新しい建設プロジェクトを見つけるための検索エンジンを作成した。この生成AIモデルをトレーニングするために、Metrocはニュース記事や自治体文書からの手がかりを理解するためのデータラベラーが必要だったのだという。
Metrocは、フィンランド語を話せない途上国の労働者を雇う代わりに、自国の刑務所から働き手を確保している。囚人は、生成AIトレーニングに必要なデータラベリングを行うことで、デジタルワールドでの仕事に備えることができる。
しかしながら囚人が生成AIトレーニングに使用されることは、彼らが刑務所で強制労働をさせられているともとれる。このように企業が安価な労働力を求めることは、倫理的に問題があると非難を受けているようだ。
参考記事:These Prisoners Are Training AI | WIRED UK
なぜ、スタートアップ企業Metrocは囚人を選んだのか?
フィンランドのスタートアップ企業Metrocは、建設プロジェクトに関する情報を生成AIに教えるための人材を探していた。
世界中には「クリックワーカー」と呼ばれる人たちが何百万人もいて、人工知能モデルをトレーニングしている。彼らは主に、グローバル・サウスと呼ばれる地域に住んでいて、低賃金で働いている人が多い。
ただ、Metrocが必要とするフィンランド語を話せる人が、グローバル・サウスにはほとんどいない。そこで、Metrocは刑務所の囚人を雇って、この生成AIトレーニングの仕事をさせることにしたのだ。
囚人たちはこの仕事をすることで報酬を受け取り、刑務所を出た後に役立つスキルを学べるチャンスがある。企業にとっては、コストを抑えつつ必要な言語スキルを持った労働者を確保できるメリットがある。
しかし、このような仕事に囚人を使うことは公平ではない、倫理的な問題があるのではないかという懸念も出ている。
なお、生成AI時代に求められる倫理観について詳しく知りたい方は、下記の記事を合わせてご確認ください。
→ AIリテラシーとは?AIリテラシーを身につけるべき理由やおすすめの資格5選を紹介
囚人を使うことでの倫理的な問題とは
囚人をこの仕事に使うことには、いくつかの問題があると考えられる。
まず、囚人たちには他の仕事をする選択肢がないかもしれないし、十分な報酬を受け取れない可能性もある。これだと、彼らが不当に利用されていないか疑問が残る。
次に、刑務所から出てきたときに役立つスキルを身につけられるかどうかも、心配されている点だ。刑務所の役割の一つは、囚人を社会に戻し、まともな仕事を見つける手助けをすることだ。しかし、このやり方で本当に上手く行くのかは不明な点が多い。
これらのことを考えると、囚人を使った仕事が公平で、彼らにとって良い影響を与えているのか考える必要がある。
なお、生成AI時代のスキル習得について知りたい方はこちらをご覧ください。
→生成AI時代のリスキリングとは?メリットや成功した国内企業事例10選を紹介
囚人をこの仕事で使うべきか
「囚人たちをこのような仕事に使っていいのか?」「彼らは安い賃金で働かされているけど、それは公平なのか?」
上記のような疑問は残る。以下では、実際の議論内容を紹介している。
本当にスキルが身に付くのか?
このプロジェクトは、囚人たちに新しいスキルを教えるといういい面もある。彼らが刑務所を出た後、新しい技術がどんどん出てくる世の中で生きていくのに役立つかもしれない。でも、この仕事が単純で退屈なだけで本当に役立つスキルを教えているのかは、はっきりしていない。
一方で、専門家の中には、この仕事が囚人たちに自信をつけさせると言う人もいる。彼らは社会から離れているけど、この仕事を通じて、自分たちも社会に貢献していると感じることができるのだ。
でも、これが長い目で見て囚人たちにとっていいことなのか、まだわからない。だから、この仕事が囚人たちにとって公平で彼らがちゃんとしたスキルを身につけられるように、しっかりと見守っていく必要がある。
他国ではまた別の問題も……
フィンランドでは、刑務所の仕事がリハビリのように役立つようになっているけど、他の国ではうまくいくとは限らない。例えば、公民権団体ACLUによると、アメリカでは受刑者の76%が刑務所での労働は義務であると報告している。
この報告から、アメリカの刑務所制度はフィンランドや北欧諸国の刑務所制度とはかなり違うようだ。だから、このプロジェクトを他の国に広げる前に、その国の状況をよく考えて慎重に進めないといけない。
結局のところ、囚人たちをこの仕事に使うことは、まだ試験段階。彼らが公正な扱いを受け、ちゃんとしたスキルを身につけられるように、みんなで注意深く見ていくことが大切だ。
なお、生成AI時代の人材育成について詳しく知りたい方は、下記の記事を合わせてご確認ください。
→生成AI人材育成マニュアル!AI時代に活躍する部下の育成方法
リサーチャーの所感
このニュース記事を読んで、囚人たちが生成AIの訓練を行っていることを初めて知った。今まで誰が生成AIを訓練しているかなんて考えたこともなかった。よくよく考えて見れば、生成AIは訓練することで正確な情報を出力できるため、そのような仕事があっても不思議ではない。
ただ、企業からすると単純作業の生成AI訓練の仕事に高額な報酬を出したくないのは当然だと思う。かといって、低賃金ではなかなか仕事を引き受けてくれる人は少ない。そこで、囚人たちにこの仕事をお願いしたのには納得した。
生成AIが進化していく中で、生成AIの訓練はとても重要だと思う。生成AIを訓練していかなければ、今後新たな技術は生まれないし、正確な情報を出力できない。
その重要な仕事に携わっていると、囚人たちが感じれば社会貢献できているという実感が湧いてくると思う。
仮に、出所してこのスキルが役に立たなくてもいいと思う。確かに、専門的なスキルを身につけ次の就職に生かせることが一番いい。
それより大事なのは、スキルより人のためになる仕事の大切さや社会貢献できているという自分への存在価値を感じることだと思う。
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